*
*
鉄の旋律 ご意見ご感想お待ちしてます!
【出版社】 【発表年】 【サイズ】【その他】
【感想】
*妹が嫁いだアルバーニ家の掟を破ったがために両腕を切断されるという報復を見舞った主人公ダン・タクヤは復讐と憎悪の塊となって自在に動かせる義手を求めた。手腕の形をした鉄を身につけて超能力に似た力で鉄の義手を動かせるまでになった彼は単身アルバーニ家の復讐を決行する。だが、彼の復讐と憎悪の塊は鉄の腕に受け継がれていた・・・。
彼にはまだ他の心がある。慈悲がある。だが、鉄の腕は復讐と憎悪のみ。それは彼の就寝中に動き出して次々と一家の親族を殺し、彼は自身の義手に慄きはじめる。彼の意志とは無関係に増幅される鉄の憎悪が自分に向けられ破滅するのは当然の帰結なのだろうか。自分のばかさ加減を知ったとき、鉄の旋律は彼に死をたむける・・・。(白拍子99/9/15)
ジョーを訪ねた男*ご意見ご感想お待ちしてます!
【出版社】 【発表年】 【サイズ】【その他】
【感想】
*人種差別。主人公ウイリー・オハラの苦しみはそれのくだらなさに気付かないところにあります。「白人」という根拠なき自尊心を持つ故に、戦争で九死に一生を得ながらも、自身に流れる黒人の血が彼の自尊心を内側から崩してしまう。たとえそういう事実を示す証拠を焼き捨てたとしても、しっかりと受け継がれた彼の血肉に息づく黒人の血は消しようがないのです。「純血」にこだわるあまり見失ってしまつた「なにか」を求めて黒人街を訪れた彼はジョーの母に会い、改心・自身の愚かさを悟るものの、彼が「白人」にこだわったのと同じように「黒人」にこだわる黒人たちに殺されるラストは手塚の物語作家としての冷酷さを感じます。手塚治虫後期の代表作「アドルフに告ぐ」と底流でつながる珠玉短編です。(白拍子99/9/15)
人間ども集まれ!*ご意見ご感想お待ちしてます!
【出版社】実業之日本社
【発表年】 【サイズ】【その他】再版完全版
【感想】
*読み始めてすぐ「似たような作品があったな。」そう感じた。実際「火の鳥(生命編)」にクローン人間が人間の娯楽の的、インベーダーゲームの的として殺されていくストーリーがある。 働き蜂として人間に忠実な一代限りの「無性人間」。彼らがクーデターを起こし人間を裁く勝利と唯一人間の性の神秘を分かち合えない悲劇の結末がそこには待っている。 手塚作品のスケールの大きさは、私達日常の些細な出来事を嘲笑うかのようだ。ただ人工授精やクローン人間を賞賛し、意欲を燃やす研究者たちが実際今の世の中存在することを考えると、この漫画の出来事は将来在り得るのかな?(01/05
まるこ)
*主人公の精子から作られた「無性人間」が人間の奴隷となるに至り、戦争の兵士として大量生産された結果人間に対して反乱を起こし、やがて主人公を除く人間をことごとく去勢してしまう…という作品です。手塚マンガにヒューマニズムを求める人には面白くない話でしょうが、手塚の初期作品から息づく「対立する二者の和解と共生」が実にわかりやすく描かれている名作です。無性人間はいわばクローン人間であり、遺作「ネオ・ファウスト」でも描かれる予定だったようですが、人間によって造られたものが人間に反抗する、というのは「鉄腕アトム」でも見られます。クローン人間は先年より幾度か議論されていましたが、手塚作品に触れていた人々にとっては何を今更の感があったでしょう。「火の鳥 生命編」でも、作られたクローン人間は殺し合いに使われています。手塚は無意識のうちに人間という存在の危うさを描いていたと考えます。動植物のクローンは食用や絶滅の阻止といった使い道があるにもかかわらず、人間のクローンは殺すことにしか役立たない…。この虚しさ。手塚がこの作品を巧く描いている他の点は、無性人間(当然外見の違いはほとんどない)をひとりひとり個性のある人間として扱っているところです。その他大勢として扱われているのはむしろ人間のほうかもしれません。(白拍子99/9/15)
*手塚治虫特有のナンセンスまんがでさりげなく毒が効いているでやんす。テーマはかなり重く性別とか人権とかがメインでやんす。とにかく、手塚治虫らしい一作でやんす。ダークな手塚が好きな人は読む価値ありっス。しかし、あのおっさんは本当に天才というか恐ろしいというか・・・・。(亮99/7/25)
アトムの最後*ご意見ご感想お待ちしてます!
【出版社】朝日ソノラマ
【発表年】1970年「月刊少年マガジン」七月号掲載
【サイズ】【その他】
【感想】
*「鉄腕アトム」といってアニメを思い出す人にアトムは理解できないと思います。ドラえもんほどではないにしろ、キャラクターの可愛さだけが先行して売れる諸々のグッズを抱いて「アトムが好き、アトムかわいい」という人々なんて漫画すら理解できないのではないかと憤ることもあります。
「鉄腕アトム」は、人間とロボットの永久に続く対立を描いた、とても重い主題を内包した漫画です。主人公アトムは常に人間とロボットの狭間に立って懊悩し、幾度も破壊されては再生し、永遠に戦いつづけなければならない悲劇なのです。
この「アトムの最後」という作品は、アトムの最終話ではありません。何故このような題名をつけたか私はわかりませんが、当時の学生運動などの時代背景に多分の影響の下で描かれたことを手塚治自身が語っています。
主人公は鉄皮丈夫(てつかわたけお)という青年で、ある日、恋人のジュリーとともにアトムの保管されたロボット博物館にやって来ます。エネルギーを注入されてよみがえったアトムは、ロボットに追われていると言う丈夫の話を聞く事になります。
何故追われる結果になったのか。世界はロボットに支配され、人間はロボットに養われる存在になっていたのです。丈夫の両親もロボットで、彼はいわゆる試験管ベイビーでした。ロボットのペット・家畜となった人間は、さまざまな目的で育てられますが、丈夫は長じて決闘させるために育てられていました。人間同士の殺し合いを楽しむロボット。「ふざけるな、この人間め」と親(ロボット)に殴られる丈夫の姿が、「鉄腕アトム」で人間に虐げられたロボットの姿と重なることは言うまでもありません。やがてジュリーを連れて脱走した丈夫は、人間の味方だったというアトムを思いだし、アトムが保管されている地へやって来たというわけです。
追っ手から逃げる三人は無人島に身を隠します。アトムはかつて人間とロボットが小競り合いはあったものの共生していた頃を懐かしみ、現状を嘆きながら、丈夫とジュリーの関係に希望を見出します、「?」とする丈夫に、「彼女はロボットですよ」とアトムは言います。絶望する丈夫。そして迫る追っ手の群れに突入するアトムの生死は知れません。残された丈夫は悲嘆に暮れ、「人間だってロボットだって、どっちでもいいじゃない」と泣き崩れるジュリーを殺し(破壊し)、抵抗らしい抵抗も出来ず追っ手に殺されるのです。
アトムが生まれてから50年後の世界が舞台です。手塚漫画といえば人道主義とか自然保護しか読み取れない人には陰惨でどうにもやるせない作品なのでしょうが、手塚の真骨頂こそ、こうした暗く救いのない漫画だと私は思います。力関係に依存している現在の私たちののんきな日常に対する、「政治の季節」の雰囲気を含んだ手塚なりのアンチテーゼなのです。(白拍子
99/5/5)
安達が原*ご意見ご感想お待ちしてます!
【出版社】講談社 手塚治虫漫画全集「ライオンブックス」第一巻収録 集英社 手塚治虫名作集3「百物語」収録他多数
【発表年】1971年少年ジャンプ3月22日号掲載 【サイズ】【その他】サンコミックス「鉄腕アトム」別巻収録他
【感想】
*数ある短編の中で白眉と呼ぶに相応しい傑作です。
題名通りに能の「黒塚(安達が原)」を下敷きとしたSFで、主人公・ユーケイの名は「黒塚」の主人公・山伏の阿闍梨祐慶から得たものです。冒頭と中ほどと最後に能の一場面が登場しますが、この効果は読者によって様々でしょう。私は作品の根底に流れる悲哀のようなものを感じましたが、さて。
この作品の魅力はなんといっても山場の魔女と呼ばれる老婆の告白です。老婆がユーケイのかつて恋人だと明かす場面で泣き崩れるユーケイの傷みは読者の心を震えさせます。私ははじめて読んだとき、驚愕しました。あらためて読み返せば、さすが手塚治虫、しっかり伏線を張っているのがわかりますが、とにかく興奮しました。読み終えてすぐに読みなおすほどでした。そうした手塚の優れた構成力には感服します、恐れ入ります。
ところが、こうした手塚の独創とわわれた本作品は「黒塚」に基づいている以上、なんらかの模倣があったのではと思い至ります。岩手という女性が女子を出産後、姑と不仲になってまもなく京都の実家に帰って子供を育てるものの、子供は成長しても口を聞かず、どうしたものかと思案に暮れていると「生きている人の肝を食わせればよい」という情報を得ます、陸奥に人を食わせる所があるのを聞きつけてその地、つまり黒塚の地まで単身やって来て、子供に食わせる前に大丈夫なものか自分で確かめようと食べたところたいそう美味く、そのまま居着いてしまい、日毎人の肉を食らうようになったという、ある時若い夫婦がやって来て、一晩泊めるものの、夫がちょいと外出した隙に女を殺してしまう、女が息を引き取る際に「わたしは岩手という名の母を探しにここへ来た」という言葉を聞き、鬼婆は…。
つまり手塚は二人の立場を「黒塚」と同じ位置に立たせると同時に、全く逆転して描いてもいるのです。ユーケイは彼の地を訪れた調査官(山伏)であり安達が原の鬼婆(殺し屋)でもあり、アンニー(ちなみに彼女の姓は黒塚ですね)は来訪者を殺して食らう魔女(鬼婆)であり母を捜す娘(恋人を想っていつか会える日を待っていた女)でもあるのです。手塚の天才振りを実感しました。
もちろん、「黒塚」なんて知らなくとも本作品は感動します。ユーケイが泣きながらアンニーの手料理を手掴みで食べる最後の場面は秀逸です。
「あさましや はずかしの わがすがた」という最後の場面は、能では素顔を見られた鬼婆が顔を隠しながら去っていく場面です。この言葉は魔女となったアンニーの言葉であると同時に、告白を聞くまで恋人だと気づけなかったユーケイ自身の激しい自責の念にも思えました。(白拍子
99/3/22)
紙の砦
全1巻*ご意見ご感想お待ちしてます!
【出版社】大都社スターコミックス
【発表年】雑誌連載1974年開始 【サイズ】【その他】講談社手塚治虫漫画全集にも収録。
【感想】
*手塚の代表的な自伝的短編としてあまりに有名な作品です。彼の戦争体験の一部でありながら、勤労動員の様子を悲哀ではなく滑稽に描き、単なる戦争体験漫画となるのを避けているように思います。と同時に、当時の日本への諦念というのか、冷めきった表情が主人公からうかがえ、手塚治虫という人間の戦争観・国家観を推測できますので、彼の戦争体験を引用するにはもってこいというわけです。私はこの作品で唯一疑問に感じたことがありまして、それは手塚の家族が全く登場しない、ということです。実際に劇中の大寒鉄郎こと手塚治虫は、空襲で町が焼かれながらもさほど家族を心配しません。火事の規模から、どうやら家は無事のようだと思う程度です。短編故にそこまで描ききれなかったとも考えられますが、「紙の砦」という題名にした以上、この作品は戦争物なのです。空襲に遭えば当然主人公の近親者がどうなったかも多少は触れるものでしょう。と言いながら、そのようなつまらないけちを跳ねのけてしまう力をこの作品は持っています。それが名作と呼ばれる所以なのです。(白拍子
99/3/7)
ヤジとボク*ご意見ご感想お待ちしてます!
【出版社】集英社 1975年月刊少年ジャンプ3月号 講談社 手塚治虫漫画全集「タイガーブックス第4巻」収録
【発表年】 【サイズ】【その他】
【感想】
*日記を書く知的障害児のヤジローは大学で脳の研究をしている兄を嫌っています。その理由ははっきりしませんが、物語からは兄の弟をわいやる気持ちがわかり、何故ヤジローが兄を嫌うのかが重点になります。
知的障害の治療に開発した実験用モルモットをヤジローは逃がします。ヤジローに保護されたねずみは「ヤジ」という名を与えられます。実験用に開発されたモルモットは高度な知能を持つように手術されたねずみで、ヤジローの協力で本を読み知能を発達させると、周辺のねずみの救済に爆薬を使って人間を襲います。町の飢えに苦しむねずみたちは「ヤジ」により一軒家に集められ、生活に汲々としながらも「ヤジ」とヤジローの奔走により飢えをしのぎますが、日記を兄に盗み読まれたことから、ねずみの集まる家屋が街の人々に燃やされてしまい、「ヤジ」は火の中に飛び込んで最後まで仲間のために力を尽くすのでした。
兄は言います。「今度はヤジローがあたまのよくなる番だ、今に普通の人になれるさ」
普通の人とはどのような人でしょうか。「ヤジ」を普通の人と見ることが出来れば、「ヤジ」の最後はあまりに悲壮で英雄的です、人間的なのです。しかし、兄が望んだ普通の人とは人並みの常識と知識を備えた人、ということをヤジローは直観していたのでしょう。「普通の人になりたくない」とヤジローはきっぱり言います。ヤジローが望んでいたのは、互いに思いやる仲間だったのです。そう考えると、ヤジローがねずみに「ヤジ」という自分と同じ名を与えた理由がわかるかもしれません。
劇中のヤジローの表情・しぐさは時に「ブラック・ジャック」のピノコを連想するほど可愛らしくもありますが、その泣き顔からは悲しみだけが直截伝わります、名編です。
ちなみにこの作品は手塚版「アルジャーノンに花束を」といわれています。暇ならばお調べください。(白拍子
99/4/4)
ユニコ*ご意見ご感想お待ちしてます!
【出版社】サンリオ 【発表年】リリカにて1976年11月創刊号〜1979年3月号(これにて休刊)連載(途中休載あり)
【サイズ】【その他】連載第1回目の目次には「一角獣のユニコーンのかわいい子ユニコがくりひろげる愛とかなしみの美しい長編ドラマ」。リリカで最後までオールカラーが貫かれた貴重な作品でもある。
【感想】
ウオビット*ご意見ご感想お待ちしてます!
【出版社】講談社他 【発表年】1976年月刊少年マガジン11月〜12月号
【サイズ】四六判【その他】講談社手塚治虫全集「メタモルフォーゼ」他
【感想】
*未完に終わった第二部「バンパイヤ」の続編あるいは完結編とも言えなくもない作品です。とある外国の農場で展開される人狼(ウエアウルフ・満月を見て狼に変身する人)騒動の顛末が描かれていて、主人公は当然ロックです。「バンパイヤ」において彼自身がバンパイヤではないかと疑われましたが、ここでは序盤で彼が人狼であることを明かし、手塚は物語を盛り上げるために人狼より恐ろしいバンパイヤの存在を暗示させる場面を挿入して、後にロックと決戦の山場があるだろうと予感させています。ロックによって人狼騒動が解決した後に起こる惨殺事件に農場の人々はまだ人狼がいるのではないかと疑います。その的はロック自身に当たり、警察は彼を調べ始める。一方でロックは、人狼の「血筋」が兎に引き継がれていたことを知り、農場の少年とともに「悪魔の血」を根絶やすために狼兎(ウオビット)になった兎の探索に出る…。
物語作家として優れている手塚は、ここでも狂言回しの役割をする人物を忘れません。ウオビットとロックの死闘を目撃する少年を用意することで、ロックが人狼であることを知りながら「立派な人でした」という最後の少年の台詞にリアリティが生まれ、またロックは人間として扱われることによって救いも生まれます。(白拍子
99/3/14)
陽だまりの樹全7巻*ご意見ご感想お待ちしてます!
【出版社】 【発表年】1981年連載開始
【サイズ】【その他】小学館文庫全8巻、同社叢書全7巻、全集では全11巻
【感想】
*主人公、伊武谷万次朗はたった十五俵程しかない小さな武家であり、世間ベタであるがゆえになかなか出世の出来ない男で、ひょんな事でしりあったなりたて医師であり、親友(と、なった)手塚良庵と共に時代の波に荒らされ、時には自分の無力さに失望しながらもまっとう、自分の強い意思を持ちながら時代を凝視する、、、その純粋さが最後には仇となるが、、、手塚漫画で(と言うか他の全ての漫画を含めて)初めて泣けた本、実際に買うなり借りるなりして読んで下さい!絶対にソンはしない一品です、、、 特に最後(文庫版では7・8巻あたり)の方が特にいいです、伊武谷がすごくいい!手塚良庵もなかなかの男前ですし、綾さんのけなげさにホロリと来ることうけあいです、、、手塚良庵が実際に手塚先生のルーツだという事を考えるとよけいに感情を入れて読んでしまいます、、、手塚さんの後期の傑作、人間描写がすごいです、読むべき!(otake99/8/15)
山の彼方の空紅く*ご意見ご感想お待ちしてます!
【出版社】光文社
【発表年】 1982年ジャストコミック5月号(光文社)【サイズ】【その他】手塚治虫漫画全集284巻「サスピション」収録 手塚治虫短編集2「サスピション」収録(ともに講談社)
【感想】
*最初のコマが木々に覆われた山の全景と裾野の一軒家。そして朝起きて着替えようとする少年の部屋が戦車で攻撃される場面で突如物語は緊迫します。軍事基地建設のための強制収用に反対しつづける一家のはちゃめちゃな戦いですが、相手は武装した自衛隊とあってはかなうべくもありません。数発の砲撃により家は半壊し4人家族はそれぞれ傷付き死を覚悟します。
*表面上は環境破壊を愁う手塚のエコロジー精神を容易に読み取れます。山の木々を愛でる一家の主の回想場面がありますので、ありきたりな自然保護を訴えているのかもしれません。しかし手塚治虫がそんな単純な物語を書くなんて考えたくないというのがファンのひとつの心情でしょう。
*突然、山が地滑りを起こし軍事基地は大爆発します。一家は地滑りを起こした山の陰になって爆風から逃れ、奇跡的に助かります。…なんか単純ですね、山が一家を守ってくれたわけですが、その背後で爆発により五百人が死んだって言っていますし、爆発の伏線が全くない…いやあるのです、すべてがそれなのです、作品の題名なんです。題名が先か内容が先か、確かめる術はないものの、カール・ブッセの詩を上田敏が訳した「山のあなた」を意識していたのは間違いありません。
「山のあなたの空遠く/「幸(さいわい)」住むと人のいう。/ああ、われひとと尋(と)めゆきて/涙さしぐみ、かえりきぬ。/山のあなたのなお遠く/「幸」住むと人のいう。」
*爆発によって山は焼け焦げ、少年は山の復興を誓います。どこか冷めきっていながら眼からわずかに出た涙と小さく結んだ口元によって少年の頑強な意志が表現され、奇跡だけではなく希望を見るのです。(白拍子
99/3/28)
アドルフに告ぐ全4巻*ご意見ご感想お待ちしてます!
【出版社】文芸春秋 【発表年】1巻1985/5
【サイズ】四六判【その他】4巻巻末手塚治虫による「あとがき」収録
【感想】
思わず実話じゃないかと疑ってしまうくらい、恐いくらいのリアリティに溢れた作品。アドルフ・カミル、アドルフ・カウフマン、そしてアドルフ・ヒトラー……三人のアドルフが歴史の渦の中で、時に離れ、時に密接につながりながら物語を織り成していく。戦争が終わっても戦争は終わらない。憎しみは永遠に消えていかない。彼らは死の直前まで迷子だった。この世では安住の地を見つけられない迷子であった。その狂気にも似た世界は、しかし限りなく真実であり、現実である。読んで恐いと思った作品はこれが初めてではないが、この作品は特にそれが強かった。自分の立つ地面にしみこむ血の存在を感じて、思わずめまいを感じた。この作品は今の世の中にこそ読まれなければならないだろう。そして、永遠に語り継がれるべき物語だろう。アドルフに「告ぐ」。この作品は、この世紀を生きる全ての人にあらゆることを告げている。そしてその警告は、未だ強くなっていく一方である。今は亡き手塚先生の祈りは、一体いつの時代に届くのであろうか。(2003/4
緋桐)
*2001年9月11日ニューヨークを襲ったテロ後、火の手はやはりこの聖地で上がっています。2000年の歴史を溯るこの対立、問題は何も解決されていないことを、目の前でまざまざと見せつけられる毎日。4巻、由季江が問い掛ける「どの民族だっておんなじように家族があって家庭があるんでしょ。それなのに…なぜ人間ってバラバラなのかしら」というシンプルな疑問を、結局人間は解くことができないのかな…。(2002/6
troy)
*このマンガはホントにすごい。第2次世界大戦が舞台の壮大な歴史大河ですが、複雑な伏線がバリバリ張り巡らされていて、とにかく面白いです。
そんなすごいエンターテイメント性の上に、高いメッセージ性もあり、読むと止まらなくなります。個人的には、「ブラックジャック」と並んで、手塚治虫のベストです。
果たして、題名・「アドルフに告ぐ」とは?!(01/04 博士)
ネオ・ファウスト全1巻*ご意見ご感想お待ちしてます!
【出版社】朝日新聞社 【発表年】1992/10/1
【サイズ】文庫(朝日文庫)【その他】第二部未完。解説長谷川つとむ。 巻末に第二部第三回の下書き、巻末に手塚真「わが父・手塚治虫収録。
【感想】
*私が手塚治虫に強く惹かれるきっかけはこの作品と言っても過言ではない。このネオ・ファウストは絶対読む価値がある。
ゲーテの『ファウスト』は人間の生欲、知識欲に基づいた『生きる意味』を問う悲劇である。
死期の迫った博士ファウストは、神の段階とされる生命の操作を自分の学問の目的としているが、一方死期が迫り未完となる時間の恐怖に怯える日々を送っている。そこへ悪魔《メフィストフェレス》の登場があり、魂の交換を条件にファウストは青春と時間を取り戻す。メフィストは財力を持ち備えて街に出るが、遊ぶつもりの女子大生《まりこ》に本気に恋をする。しかしそれも束の間、メフィストとの契約「満足」自身の野望を手に入れるために、妊娠した《まりこ》を捨てて権力名声を手に入れる。
しばらくして哀れ正気を失ったまりこに再会し、悪魔に捧げた身を後悔する場面でこの作品は途絶え、未完のままである。
この作品を読んだ後数日は『生きる意味』について考えてきた。貧しくとも心は錦、幸せは平凡な生活の中から見出すものだという考えと、現実には経済力こそ全ての幸せを生み出す基盤だという考えが入り混じり、結論も出ず迷宮入りのままである。 『善く生きる』これが青年の哲学のテーマである。大人のテーマは『良い社会創り』に尽きるが、そこに達するのはまだまだ時間がかかりそうである。
自由な社会で如何様にも選択肢は広がっている。この社会は生きにくくないだろうか?生きなければならないのだろうか?
実際『生きる意味』を問うために『宗教』にも関心があった。生きるとは衣食住ではない。虚飾を取り除けば裸の醜さが残るのみだ。
生きる意欲が無いときがある。喉もと過ぎれば・・・で明るい時は何も考えないで済む。
きっとファウストと同様に満足は精神の中にある。死の中にある。満足への追求は尽きない。これで幸せの限界だと云う日は来ないんじゃないだろうか。ここらへんが自分の中に在るファウスト的な部分だ。
私は要するに無気力な『子供のままの』社会人なのだ。レールからはみ出そうにも前例がなければ足が竦む。
『ネオ・ファウスト』はまた、まりこの立場で私に女性の辛さを感じさせる。過去に大失恋をした私だが、当時は人間不振になりそうだった。ファウストもまりこに全身全霊の愛をそそぎ、彼女に愛を誓う。しかしそれは時間とともに薄れ、自ら彼女の元を去っていく。何でだ?どんなに情熱的に求められていても、まりこ的な一抹の不安が常に根底に渦巻いている。
『生きる意味を問う』『恋愛における女性の立場』が当時の私に大いにだぶってこの『ネオ・ファウスト』がマイベストに入っているのかな?
これ以後手塚治虫の大人向け作品が好きだ。実はまだ『鉄腕アトム』を読んだことが無い。(01/04
まるこ)
きりひと讃歌全2巻*ご意見ご感想お待ちしてます!
【出版社】小学館 【発表年】 上巻1989/6/10 下巻1989/7/10【サイズ】四六判【その他】
【感想】
*顔が犬のようになってしまう謎の病気モンモウ病に自ら侵されまたそれをめぐる陰謀に巻き込まれながらも生き抜く医師桐人。重いストーリーが重いまま、どす黒いタッチで描かれる。特に桐人の友人占部の狂気の描き方は圧巻。(雁)
火の鳥全12巻*ご意見ご感想お待ちしてます!
【出版社】角川書店 【発表年】1(黎明編)
2(未来編)3(ヤマト・異形編) 4(鳳凰編) 5(復活・羽衣編)6(望郷編)7(乱世編・上)8(乱世編・下)9(宇宙生命編)10(太陽編・上)以上1986年
11(太陽編・下)1987年 12(ギリシャ・ローマ編)1990年 【サイズ】四六判【その他】初出:10(太陽編・上):1986年「野生時代」連載。11(太陽編・下):1986年〜1988年「野生時代」連載。再版刊行に際し一部改変 12(ギリシャ・ローマ編)
:黎明編(巻末に収録)1954年(「漫画少年」)エジプト編(巻末に収録)1956年
ギリシャ編1956年 ローマ編1957年(いずれも「少女クラブ」)
【感想】
*
とても素晴らしい作品に出会いました。火の鳥は、私たちがこれまでに会った作品とは全く違って、宇宙の神秘さや命の尊さを語りかけてくれます。私たちの人生は遥か遠い昔から「運命」という言葉で支配されていて、誰もその運命を逃れることはありません。かつての悪人は現世で罰を受け死んでいく・・・。しかしそれは、来世で良い人生が送れるよう、新たに生まれ変わるのだ。恐くない。私はしばしば「運命」という言葉に疑問を抱いていたが、火の鳥は、私にも答えをくれました。本当に素晴らしい作品です。(01/06
CRUISE)
*宇宙そのもの、生命そのものを火の鳥にたくし人間の生きようを描かんとしたまさに手塚治虫のライフワーク。まだまだ描くつもりがあったはず。そしてその先には何があったんだろう。これはもう、まんがというより教科書(学校の、ではなく…人生の、かな?)(雁)
*「生命・宇宙・時間」
一個人の感覚を超越した世界存在との融合。真剣にそんなことを考えさせられる作品です。何度読み返してもその都度新たな発見がある。手塚先生の夭逝が残念です。(悠)
ブッダ全8巻*ご意見ご感想お待ちしてます!
【出版社】潮出版社 【発表年】1巻(カピラヴァストゥ)1987年
2巻(四門出遊)1987年 3巻(ダイバダッタ)1987年 4巻(ウルベーラの森)1987年
5巻(鹿野苑)1987年 6巻(アナンダ)1987年 7巻(アジャセ)1988年 8巻(祇園精舎)1988年
【サイズ】B6版【その他】
【感想】
*ブッダ(シッダルタ)が悟りを開くのは4巻。「木や草や山や川がそこにあるように人間もこの自然の中にあるからにはちゃんと意味があって生きている。あらゆるものとつながりを持って。もしおまえがいないならば何かが狂うだろう。おまえは大事な役目をしているのだ」。しかしそれからもブッダの苦しみは続く、世は荒れ人々は苦しみすべてに安寧は訪れない。それは今も。(雁)
BLACK JACKブラック・ジャックご意見ご感想お待ちしてます!
【出版社】秋田書店 【発表年】1巻1987/4
【サイズ】四六判【その他】秋田書店コミックスは全25巻
【感想】
*もう!すごく好き。ブラック・ジャック
が一番。手塚治虫先生の本自体、勉強になるし、内容が濃い。中でもブラック・ジャック
は私の将来を変えた本だな?。ピノコと、ちゃんとした形でくっついてほしかった・・(;-_-)。(01/05
とし)
*本当に面白い作品だと思います。リボンの騎士、メルモちゃんといったかわいい作品とはまったく対立の主人口で、人からはあの漫画だけは暗そうで好きでないとか言われたりします。だけど、あれほど未来への希望を投げかけたり、ヒューマニズムに富み、メッセージ性の強いものは、手塚作品の中でも1.2を争うはず。ニヒルで有名なかっこいい主人公BJ。でも本とは、お茶目でかわいい一面もあるんですよ。大好きです。(01/04
扉)
MW
全2巻*ご意見ご感想お待ちしてます!
【出版社】小学館 【発表年】 1巻1989/10/10
2巻1989/11/10【サイズ】四六判【その他】
【感想】
(2005/5up)
*「背徳」って感じがいい。賀来は神父なのに友人の犯罪をみのがし、同性愛・・・そして罪悪感にさいなまれ、「主よ、私をお裁き下さい」(確かこんな感じのせりふ)とかなんとか言って苦しんでる絵が、いい。
結城は手塚治虫が描くのでは珍しい二枚目だと思う。それにしても「悪」な奴ってなんか魅力があったりする。皮肉なことにまじめに生きてる人よりも・・・やんなちゃうけど。(kuro)
ルードウィヒ・B全2巻*ご意見ご感想お待ちしてます!
【出版社】潮出版社 【発表年】1巻1993/4
【サイズ】文庫【その他】1巻「運命の子フランツ」(巻末に富田勲解説、手塚治虫による「絵ッセイ」収録)2巻「音楽の都ウィーン」(解説
萩尾望都)「コミックトム」に1987年6月号〜1989年2月号まで連載、単行本は同社より1989年8月発行
【感想】
*手塚先生の晩年の作品の特徴か、この作品も「アドルフに告ぐ」と同様「名前物語」の趣向を含んでいます。それがありきたりなベートーヴェンの伝奇物語と一線を画すところで、しょっぱなからぐんぐん物語に引き込まれました。「ルードウィヒ」を敵とにらむ貴族の青年フランツにより、良くも悪くも運命に影響を与えられる少年ベートーヴェン。しかしこの作品は、名作の予感を残しながらまだ半分もいかぬ内に絶筆になってしまったのです。
その見事さゆえに何度読んでも絶筆した最後の場面を見るのは辛く残念であり、また死の直前までその筆の衰えることなく、常に全力で作品を生み出し続けた手塚先生の生き様を改めて知らされもします。ああ本当に、この人は漫画に命を捧げてしまった人なのだと。(2003/4
緋桐)
◆□ある日の掲示板□◆ ((99/6/20))
■トピック:少年時代のエポックマンガ
□「フィルムは生きている」手塚治虫があります。でも、これは持っていなくて、小学生の時に、となりに住んでいた中学生のお兄さんに一度だけ読ませてもらっただけだったように記憶しております。入手したのは、たぶん、講談社の全集に入ってからですから、10年以上あとですね。
でも、とってもよく覚えていますし、とても強く影響を受けたと思います。「漫画家残酷物語」ともども、何かを愛することの素晴らしさを教えてもらったんだなぁと、思います。(honbako99/6/4)
■トピック:トラウマとなった作品
◆手塚治虫さんの「夜明け城」です。・・・・人間のはかなさをあますところなく表現していて、幼な心に「無常」を教えた作品です。(かも99/6/4)
□私にとってそれは一連の恐怖漫画ですね。楳図かずお「半魚人」、最近読み直したけどやっぱりこわい。
手塚治虫先生の「赤の他人」。自分の親ももしかしたら「親を演じている他人」かもしれないって長いこと悩んでいました。小学生の頃です。手塚治虫氏はこういった作品がいくつかありましたね。「マグマ大使」の人間モドキ。「グランドール」もおかあさんがいつのまにか入れ替わっていたし。(セサミ99/6/4)