●「スケバン刑事」鳥瞰図● |
誕生編 |
●主人公麻宮サキが、母の死刑執行書と引き換えにやむなく学生刑事となるため、安住の地である少年院を脱走するところから物語が始まります。少年院を脱走する方法も意外性がありたのしくよめました。
●脱走後主人公の手がける事件は、時効成立直前という設定のため展開が速やかでかつ緊迫感に富んでいます。また、主人公の推理も見事です。ただ、話自体は容疑者の絞り込み方にやや無理があるのとこの犯人でこの短時間に犯行が実現可能かなど多少無理が感じられなくもありませんが完成度はかなりのものだとおもいます。
●そして事件解決後も主人公が学生刑事を引き受けざるを得ない状況に追い込む暗闇警視のらつ腕には感心させられました。 |
3匹の蛇編 |
●ここで、サキ の宿敵となる海槌麗巳が登場します。中でも圧巻なのは二人の出会いの場面で、一瞬お互いの視線が合っただけで互いの危険性を認識して火花を散らし合う二人の表情はなかなか衝撃的でした。
●その海槌家の陰謀により多数の犠牲者、ことにサキ
が妹のように思っていた少女の死により 彼女の中の正義感が目覚め音を立てて燃え広がるとき、サキは真の意味で「学生刑事」となったのです。その意味ではこの章は実質的意味での「誕生篇」と言えるのかもしれません。
●またここで印象的だったところは、マスメディアが真実を伝えるとは限らず事によってはそれを歪めて伝えることすらあるということを示した場面でした。 |
3匹の蛇逆襲編 |
●ここの見所はなんといっても麗巳とサキとの対決です。初めは麗巳の攻撃になす術もなかったサキ
がやがて目をかっと見開き反撃に望む様はまさに鬼気迫るものがあり、自称「巨大悪」の麗巳が気迫負けしています。ここでの麗巳はまだ子悪党を一歩抜け出した程度にすぎず、彼女が真価を発揮するのはむしろこれからでしょう。
●ただここの章での「死者に手錠はかけられない」という考え方が後の章に必ずしも反映されなかったのは少し残念に思いました。 |
緑の消失点 |
●奇怪な老婆、魁偉な地形、封印された因習とそれを奇貨とする黒い陰謀などなどまさに和田ワールド満載の話です。奇想天外な話の奥に過去にすがり付いてしか生きられない老婆の孤独が描き込まれていて密度の濃い話であると思います。
●ちなみにここでは漫画家「岩田慎二」氏も登場して事件解決への突破口になる情報を見つけ出すおいしい役割を担います。
●それにしても、ここでのサキ の服装はなんとかなりませんかね〜。なんか道頓堀のグリコの看板みたいでちょっと(^^;)。 |
無法の街 |
●閉鎖的な街に肥大したエゴイズムがある事件により表出して町全体を覆い隠しついには大騒動を巻き起こす恐怖を描いた作品です。
●自らが多数派であることに乗じて少数派を不法に虐げることになんら良心の呵責を感じないといった地元住民の精神構造に
サキ と三平は怒りを新にして一気に事件解決に乗り出します。
●最後に サキが切った啖呵に地元住民が慌てる様は痛快そのものです。またこの事件は謎が謎を呼ぶ複雑な構成で最後まで目が放せず、校内事件のなかでも完成度の高い作品であると思います。 |
朝焼けの非常線 |
●ここでサキの母親と妹の美幸が登場し、これまでにぼんやりと暗示されてきたサキの家庭環境の輪郭が浮かび上がる話です。
●この章で特筆されるべきは、サキに対する神恭一郎と沼先生の視点と三平の視点が異なるところでしょう。
純粋にサキを案じる三平に対しサキの生活史を知る彼らは「お前はサキの真の姿を知らない」と言いますが、果たして彼らが本当に彼女を理解しているかどうかは疑問の残るところです。
ひとり胸中を語るサキから彼女の抱く孤独の深さがひしひしと伝わります。
●また、サキが妹と向かい合って対面するシーンで、完全版では自らを見つめる妹をサキがいったん無視する場面そして胸に飛びこみ「会いたかった」という妹にサキが「あたしも、、」と言いかけて口篭もり視線を虚空にさ迷わせる場面が追加されています。 |
ふたたび地獄城 |
●地獄城にいるはずの麗巳が外国の新聞記事写真の片隅に!?真相を確かめるべくサキは地獄城へ向かうという話です。
●ここで面白いのは サキが自らの気持ちに戸惑う場面でしょう。でも考えてみれば当然のことかもしれません。麗巳の力量及びその危険性を完全に認識しているのはサキですし麗巳もまた同様でしょう。そういう意味では二人は何よりも近くにあるといえます。しかしながら、自らの生き方を貫くためには彼らにはお互いを倒すしか道はないのです。
●この章の最後の戦闘場面でサキが「それでいいのさ、、それがあたし達の生き方なんだ」と叫び迷わず相手に向かっていくところが印象的です。 |
愛のかたち |
●「大逃亡」に関連する話です。沼先生の過去が交錯し三平とサキとの関係がしだいに微妙になっていく話です。
●ここでは三平の内面に時々焦点が当てられているのですが、彼が真正面から誠実にサキを想っていることが痛いほどよくわかります。また前編でサキの一面を驚くほど深く洞察していていることからも彼が決して「外見に惹かれているだけ」ではないことがはっきりします。そしてこの洞察は神恭一郎や沼先生には見受けられないものなのです。
●それと、人間が求めているのは「愛」という狭い概念よりもむしろ「他の何者でもない自分」を誰かに認められることの様に私には思えるのですがいかが思われますか? |
悪魔がめざめる時編 |
●前篇に引き続きサキ・三平・美幸三者間の緊張関係に悩む当人達及びそれを見守る周辺の人々そしてその様子を息を潜めてうかがう一人の影、、と嵐の前の静けさを感じさせる話です。
●ここで好きな場面は美尾が自身の過去(「バラの追跡」参照)を語った上でサキの一面をその怜悧な頭脳で解き明かし三平を説得しようとするところです。一番客観的な立場である彼女だからこその洞察で、サキがあれほど命をかけて戦う事のできる潜在的な原因はおそらくこれだと思われます。ただこの説得も分かるのですが、三平の想いを知っているだけにどうしてもそちらに同調してしまいます。
●この編の最後が折り返し地点となり、話は一挙に終結へと向かいます。 |
毒蛇逆襲編 |
●今迄沈黙していた麗巳があの手この手でサキを追いつめる一方その策謀を開始します。こうしてサキと麗巳との決着のときが刻々と迫るという話です。またここで、「朝焼けの非常線」に触れられていた「五年前の事件」が描かれ、サキとその母親の因縁が見えてきます。
●ここで納得できないのは、サキがなぜ麗巳の存在を感知できなかったかということです。かって彼女は麗巳の柔和な外見に潜む本性をいち早く見抜きました。話の展開上必要とはいえ麗巳の本性を熟知している彼女が麗巳の存在に気付かないというのは少々不自然なように思いました。それと、話の締めくくりであるにもかかわらず、肝心の話がばたばたと慌ただしくその点も残念に思いました。しかし、戦闘シーンは流石に圧巻です。サキと麗巳との対話そしてその闘い、、これについての感想を書くのは無粋というものでしょう。
●そして、ここで第一部はクライマックスを迎えるのです。 |
エピローグ |
●サキと麗巳の闘いの後日談が描かれ、ここで第一部は完結します。
●ここの見所は、麗巳の手下と神恭一郎の対決でしょうか。手負いの身であってもなお敵を倒そうとするその根性に神恭一郎がやや圧倒されています。それに顔に似合わずそのせりふのかっこいいことといったら!!私はここで彼が気に入ってしまいました。
●そして神恭一郎がいったん幕を下ろす形で完結した「スケバン刑事」。でもそのようなことは読者並びに「花とゆめ」編集部(^^;)が許しませんでした。話は第2部へと続きます。 |
|
第一部完結1998/12/7 |
|
第二部 |
「炎の記憶編」 |
第二部第一話の舞台はNY。銃撃戦真っ最中の神恭一郎の足元に偶然転がり落ちた「あるもの」
を見たその瞬間その全身に衝撃が走るところから話は始まります。
「炎の記憶編」では普段は考えられないような場面が次々と登場して読者の目を楽しませます。
期待半分焦り半分でページをめくり、クライマックスでは思わず感情移入して拍手喝采してしまいます。
ここでの神恭一郎のせりふで「サキ・・お前の生きざまは私たちの一つの夢だった・・。」というのがあります。これは神(おそらく沼先生も)のサキに対する視点が示されていると思われます。そしてそれがサキの人生に微妙な歪みをもたらすことになるのです。 |
「紅椿奪回編」 |
母の情報を得るために高峰という警視の元で再び学生刑事になったサキが女子高校生誘拐事件をめぐり暗闇警視側の新学生刑事と対立する話です。
いわゆる盲点を巧みに突いた話で、純粋な推理ものとして見ごたえ十分かつ読後感のさわやかな作品です。新学生刑事との対決も見物ですが被害者の女子高校生由加利とサキのボケと突っ込みもサキの律義な性格が伺え楽しめます。そして最後のどんでん返しには登場人物ならずとも驚かされます。
それにしても、この編で見られるような学生の時代はもはや遠くへ過ぎ去ってしまいましたね。 |
「明日への絆編」 |
約束を履行しない高峰警視に業を煮やしたサキが母親の居所を探るため高峰と対立する話です。ここで第二編を支える基本的な登場人物が揃い踏みして後々への基礎固めになります。
ここでサキのトラウマについて本人の口から具体的な症状が語られますが、聞く程にその深刻さに胸が痛みます。母親に疎んじられ心を踏みにじられるほどその執着がいや増すという救いようのない悪循環を断ちきり開放された彼女の姿を見たいと今でも思っています。
ただここで新たに仲間となる人物もまたサキの戦闘の際に発する輝きに魅了された一人であることが気になりました。 |
「魔女狩り編」 |
私立女子高校の学園祭に起こった変死事件−その嫌疑をかけられた親友氷室今日子を救うため
サキがその高校へ潜入する話です。
舞台が良家の子女を対象とした私立女子高校であるためか、珍しくサキが髪の毛を束ねずに丁寧な物腰をしているところが笑えます。氷室今日子とサキの対話からサキの中学時代の様子が連想されます。それと個人的には神恭一郎の女装姿が見たかったと思っています。
ところで、サキの推理が次編への布石のためとはいえ推測の域を出ず刑事捜査といえないものだったことが少々気になりました。 |
「シンデレラの逆襲」 |
それまで沈黙を守っていた真犯人が活動を開始しサキと対峙する話です。
この犯人は海槌麗巳をも凌駕するやと思われる巧妙さで目の前の敵を次々排除して行きます。しかもその犯行が殆ど立証不可能なもので対するサキの出方が大変注目されます。ただその残忍さにもかかわらず被害者側よりも犯人側につい私は肩入れしてしまいました。
文庫版解説によると、この編の最後が後の「茨の檻」「炎のつめあと」への着想となったそうですがクライマックスの状況を考えると特にこの結末が不自然であるようには思われませんでした。 |
「荊の檻」 |
ある日神恭一郎が指摘したサキの異変がやがて恐るべき形で現実化する話です。
ここでは「茨の檻」の症状としてあげられている「無意識に命を惜しむ」のその背景について少々論じてみたいと思います。まず、サキにはその生い立ちから人格に根強い自己否定がありました。はみ出し者だった彼女が人々に受け入れられる唯一の方法が戦いつづけることであり学生刑事だったのです。ところが、戦いの中から友情が生まれてるにつれその感情が薄らぎ変わって自己肯定が芽生えてきたことで自己の生への執着が初めて生まれたのです。言い換えれば彼女の自己否定と自己肯定の葛藤が「無意識に命を惜しむ」遠因の一つだったと考えられるのです。だとすれば、「茨の檻」を克服する方法の一つとしてその自己肯定をよい方向へと伸ばすよう専門医が適切な治療を施すことこそが必要だったのではないかと考えるのです。確かに人を救うためには自らの命を投げ出すことも必要かもしれませんが自分の命を粗末にする人間に果たして他人の命を守ることができるのか甚だ疑問です。 |
「炎の爪あと」 |
一つの事件から次々と広がる波紋に次第に袋小路に追いつめられるサキの過程を描いた話です。結局ここのテーマは「自分を立ち直らせるものは自分以外にはない」ということで、よくありがちなおちにしなかった点はよいと思います。しまし話の内容にあまり納得がいかなかったのでそれについて書きたいと思います。
まず、前編の結末で起こったことは暗闇警視の上司としての管理責任や被害者本人の不注意も合わさったがゆえの不幸な事故でありサキだけの責任問題とはいえないと思います。またその延長線上で発生したことの中には、明らかにサキの責任外のものも含まれておりそれにより彼女を追いつめて行く方向へ話を進めていくのは筋違いではないかと思いました。
そしてその一方で彼女が自分の問題に決着をつけるところが余りに簡単に安易に終わった点が残念でした。この程度のことで克服できる問題であれば彼女をあれほどまでに袋小路においつめる必要はなく、一番ページを割いてほしい肝心要の部分が描けていないとの印象は拭いきれませんでした。 |
「間奏曲」 |
「茨の檻」・「炎のつめあと」前後編の完結編にあたり、全ての迷いを断ちきるためサキが樹真のもとで修行に励む話です。
ここでも話の疑問を書きます。
まず、樹真の用いた特訓方法が危険性が高くかつ非現実的すぎてその意義については首を傾げずにいられません。また前二編での樹真の言動を見る限り、彼の行動は殆ど意味を成さず彼が登場することは却って作品の話の流れを混乱させただけではないかとまで考えてしまいます。
そしてサキの力を最高潮に引き出すための方法として、人から「託された思いを込めて怒りで」敵を打つことを樹真は教えるのですがこれについても異議があります。というのも、確かに怒りは力を発揮する原動力の一つになりますが、怒りにとらわれ過ぎると却って敵への視点がそれ一本に固定されるあまり臨機応変な対応がとれず敵に其の隙をつかれる虞があるからです。従って
この誤った指導をする樹真の能力への疑問はさる事ながら、指導役に彼を据えた神恭一郎の人選力にも疑問を感じざるを得ません。
詰まるところ、「茨の檻」「炎のつめあと」「間奏曲」の意義はサキの「方向転換」にあるように思います。
この三部作によりサキの進む道は戦闘一本へと絞られることになりました。これ以降サキは修羅の道をひた走ることになります。 |
「梁山泊」 |
中部地方を仕切る番長組織中央連合の総長多聞寺忍の救出依頼を受けたサキが第七高等少年院通称梁山泊へと赴く話です。
まずこの話はかなり荒唐無稽な設定のもとに成立していて挿話のなかには一見して不要と思われるものまで色々と収められています。そのために却って話の内容が絞り切れず説得力を持たないものとなっています。この原因はおそらく梁山泊のもつ凶凶しさを強調したいという思惑そして今後の話への布石を敷くことによるものと推察できますが、余りに欲張りすぎない方がかえってよかったのではないかと思いました。
そしてもう一つ指摘しなければならない点があります。それは、「梁山泊」以降サキの戦闘方法が「犯人を追いつめ逮捕する」ことから「敵を倒す」方法へと変化している点です。これも今後の「敵」を想定したことによるものと思われます。しかし彼女の身分は「学生刑事」でありその役割はあくまで罪を犯した人間を追いつめ逮捕することにあるはずで、この変化は「学生刑事」の範疇を著しく逸脱したものといわざるを得ません。 |
「神恭一郎の帰還」 |
ナイアガラで静養中の神に会いに渡米したサキがなぜかムウ=ミサと珍道中する破目になる話です。この編はアメリカの随所の観光名物が満載されていて格好のガイド役による案内もありちょっとした観光案内となっています。
この編でのサキと神の大道芸じみた挿話について、ムウ=ミサはこれに二人の絆を感じて闘志を掻き立てられますが、むしろその原因は二人の無鉄砲さが功を奏したものであり、絆の深さを示す挿話としてはもっと静的なものの方がより自然でかつ説得力に富むものになったのではないかと思いました。
ところで神とムウ=ミサは、別の種類の人間のようでいて「女性を大切にするということを知ら」ない点ではなぜか共通していますね。 |
「新たなる戦い」 |
全国の高校に波及しつつあるなぞの動きを阻止するため、サキが対策を講じる話です。
ここで印象的なのが、いわゆる「健全な肉体に健全な精神が宿る」の虚飾をサキが看破する場面です。精神の発達は相対的なもので絶対的な方法などないのです。それにもかかわらず、この手のまやかしをいまだに信じる者の多いことは嘆かわしい限りです。
もう一つ心に残るのは人間の「格」の話です。格の大きさは人物の天性にもよりますが後天的な要因も大きく影響されると思います。それぞれの人間の格が織り成す妙もあれば生まれる対立もあるのです。 |
「セーラ=クルー号襲撃」 |
帰国後密かに鍛練を重ねていた神恭一郎がいよいよ始動する話です。
ここでは神恭一郎が活躍しているだけに彼の現状認識の甘さがとりわけ目立つ編でもあります。そんな彼をたしなめるパートナーの手綱さばきは見事としか言いようがありません。しかし、その認識の甘さが思わぬ隙を招き、彼を幾度か危機に陥れることになります。
この編の合間にムウ=ミサがサキを無理矢理食事に誘う(連れ去る)話が挿入されています。スガちゃんという外堀を埋める策士のムウ=ミサに対して毎回空しく抵抗するサキの様子が気の毒ながら相当笑えるところです。ムウ=ミサにかなり好意的に解釈すれば彼がサキに対等な人間的付き合いを求めていると解釈できなくもありません。しかし彼に洋服を買ってもらうのは避けたほうがいいですね。 |
「青き狼の群」 |
ここは明らかに違う話が少なくとも二編入っていることから前半と後半に分けて述べたいと思います。
前半は鷹ノ羽高校をかけた青狼会対サキ・沼先生の攻防戦の話です。ここはとりわけ主人公よりも脇役特におじ様の活躍が楽しめる話です。冒頭で暗闇警視がさりげなく気障なことをして暗闇警視ファンの心をつかみます。そしてここでとりわけ活躍するのが沼先生です。すぐに手が出るところや気分次第で試験の出題範囲を変えるところ等彼には感心できない点も多少あります。しかし第一部からたびたび登場する彼の名台詞、特にこの前半での台詞の数々はまさに彼の魂を具現し、読者の胸を熱くします。
その沼先生の真価がいかんなく発揮されるのがこの「青き狼の群」前半なのです。
後半は、中央連合と親交の深い赤目グループの危機を助けるためサキが伊賀へ赴く話です。
何しろ舞台が伊賀ということもあり、豪華絢爛なんでもありの話です。話が二転三転し、次々と予想もつかない展開が読者を迎えています。青狼会、また第三勢力との戦いは各戦闘場面が個性に富み読者を飽きさせません。そして戦いから生まれる友情の話も忘れるわけにはいかないでしょう。後半最後にまた新たな強敵がサキの前に登場し今後の嵐を予感させます。 |
「謎のグランド=スラム作戦」 |
組織「猫」・青狼会・そして財界の長老信楽老が進めつつある「グランド=スラム作戦」−その全貌を明らかにするべく暗闇警視側が別々の方向から各々糸を手繰るという話です。
謀略を図る黒幕の敷いた布石がきな臭い世界から離れた性質のものだけに、これらがどうつながりその全容をあらわすかが大変期待されます。何気ないところに謀略が隠されているという話の運びはこれが20年もの前に描かれていたものとは思えない新鮮な驚きを読者に与えます。そしてこのあたりから物語は終盤へと入って行きます。
ところでこの編は、サキの心の揺らぎが表面化する所でもあります。彼女の想いは一切の見返りを求めない、純粋で激しいものです。その彼女の想いを誠実に受け止める器量のある人間は果たして誰なのでしょうか。 |
「黙示録」 |
打倒青狼会に燃えるサキの前に思わぬ試練が立ちはだかる話です。
この事態はいずれサキが直面すべき物かもしれません。確かにサキは自分の目的のため仲間を利用しようとしたといえます。しかしその一方仲間もまたサキに頼りすぎる面がありました。その意味ではサキと仲間は互いに補助しあう関係でした。サキは少なくともこの点で仲間に対して弁明できるはずなのです。そればかりかまったくの濡れ衣まで着せられるというのにサキが言い訳ができないところに彼女の脆さが浮き彫りになっています。またこのことで「炎のつめあと」が無意識の生への執着を解決したものの、その奥に潜む問題を何一つ解決しなかったということを証明するように思います。
この編はサキの力量を示すための前段階のものですが、この最後の彼女の姿はあまりに崇高です。 |
「闇の虎」 |
神恭一郎の現在とその過去−組織「猫」への憎悪−が平行して描かれた話です。
この編で神恭一郎に降りかかる苦難の連続は、辛酸の域をはるかに越えたものです。あの過去を乗り越えたとの自負から、彼に説教おやじな側面、やや自己愛に走り勝ちな側面があるのはある程度は仕方ないのかも知れません。この自負が彼の強みであると同時に彼の弱点でもあります。というのは、8年前のことは彼のビギナーズラックによるところが多少ありました。8年前と現在の違いにいかに対処するかが
彼の今後の課題となるでしょう。
また、ここでは神恭一郎とムウ=ミサのサキに対する考え方の違いが明らかになる場面があります。 |
「黄金竜の眠る日」 |
グランド=スラム作戦決行日、パニックの広がる街中をサキが奔走する話です。
グランド=スラム作戦へ向けて敷かれた布石の数々は作戦の性格のゆえに多方面に渡るものでした。そのためこれらをつなぎあわせた作戦の実際は大規模のあまり現実味に欠けた側面があります。けれども、常に問題意識を持って物事を見る姿勢、不安に対する人間の脆さ、のどかな情景に潜む陰謀、情報操作の恐怖等、
現在にも通じるこれらを20年ほど前に描き切った作者の筆力には敬意を表せずにはいられません。
さてこの編ではサキを助ける人物が登場します。「スケバン刑事」全体を見渡すと、誰よりも彼女を深く愛したのは、結局この助力者と野分三平の二人ではないかと私は思うのです。 |
「紅の血紅の花」 |
黒幕を倒すため、サキと美鈴、神恭一郎、そしてもう一人が黒幕の最終基地ヘ乗り込む話です。ここが第二部のクライマックスにあたります。
ここで何より特筆すべきは陰謀の犠牲となった多くの無念を引き受けて戦うサキの姿でしょう。学生刑事という役職にいたものの、麻宮サキは仲間のために戦う道を選んだ戦士でした。第一部より長めに割かれた戦闘場面で、読者は手に汗握る思い、時には歯がゆい思いで見守ります。
またこの編で初めてサキと母親が正面から向かい合います。ここでサキの母親もまた、サキを憎むことでしか自分を保てないというある意味でサキに依存した状態であることが判ります。母子の確執の原因について、著者である和田先生は近親憎悪であると説明されています。できればこの問題をより深く描いて頂きたかったと思います。 |
「卒業」 |
前編から半年後春爛漫の鷹ノ羽高校で、サキが学生刑事を、そして学び舎を巣立つ話です。
この前半部分は、今までの凄惨な編を見てきた読者に、かすかな救いをもたらします。桜降りしきる校庭でサキは幸福に包まれています。彼女がその心のどこかで焦がれていたことがこの最終編で実現したことには深い感慨を覚えます。そこから頁を進めて最後に至ったとき、幾多の戦いに生きる少女の姿が改めて読者の心に鮮や
かに蘇ることでしょう。
そして、サキが何よりも愛するもの達の姿を写して、物語は静かに終わりを告げます。 |
◎完結99/3/22◎
|
|
番外編 |
「校舎は燃えているか!?」 |
「スケバン刑事」の試作品にあたり、これが好評だったことから「スケバン刑事」が生まれました。
少年院に服役していたサキが母校の校舎爆破事件を解決するという物語ですが、30pの短編ながらめりはりの利いた推理物になっています。身近に存在する薬物を利用した犯罪であることそして爆破を誘発させるために仕組んだ大仕掛けがまた日常生活のもので「身近に潜む恐怖」を身にしみて感じさせられる作品に仕上がっています。
話の最後でサキがふと漏らす言葉が彼女の本音を物語っているようで哀しい印象を残します。 |
「予告編」 |
本編には掲載されていませんが、絶版になった「和田慎二全コレクション」という画集に収録されています。
あたかも映画の予告編のように勢いのありテンポが効いたものとなっています。ちなみにこの中の1こまで、長髪をあちこちリボンで三つ編みにされた神がサキに怒りを爆発させているシーンがありました。 |
「ガラスの仮面編」 |
華やかに劇が開演しているホールで二千人もの観客が見守る中、凶悪犯に命を狙われる主演女優北島マヤをサキが助けるという話です。この番外編は美内すずえ先生と和田先生が仲良しであることと「ガラスの仮面」と「スケバン刑事」が同じ号で連載を開始したことがきっかけで実現したものです。
この話は出演メンバーの豪華さがただ事ではありません。北島マヤに月影千草「劇団つきかげ」の
メンバーが本編のキャラクターと共演するという「ガラスの仮面」と「スケバン刑事」両方のファンには垂涎もののまさに夢の共演が楽しめます。しかもおちが凄いのです(^^;)。 |
「神恭一郎白書」 |
神恭一郎の過去登場した作品と彼の紹介が彼が今手がけている事件と同時並行で描かれている話です。
これは作品というよりも「神恭一郎よいしょ」用の漫画だったように思います。掲載されている略歴もただ事ではないし彼の紹介にしても彼の愛用品の紹介からトーンの番号まで詳細に解説されています。ところでその略歴についてですが・・本編第二部で彼の過去を描いた「闇の虎」と見比べると実は矛盾が生じているのです。 |
スケバン刑事外伝
(B−CLUB9号
1986.07.30日発行) |
これは本編ではなく「B−CLUB」というバンダイが出していたホビー誌に掲載された物です。おそらく、TV版スケバン刑事IIがクライマックスと言うことと、和田慎二先生のインタビューがあったことで実現した物と思います。この話はわずか4Pだけなので、犯人との対峙だけという・・クライマックスだけという寂しいところはありますが、それでもサキの怒りが爆発し、ヨーヨーが犯人に炸裂します。最後のサキのセリフが学生刑事としてのヨーヨーを振るう理由がわかる物でした。もちろん・・最後には「麻宮サキ 生前より−」との文章があります。(風祭99/2/7) |
マンガ ファンロード 1
(昭和60年 5月25日発行) |
これは、『和田慎二』先生と和田先生ファンとしてあまりにも有名な『森勇気』さんとの合作のマンガです。
題名は『パニック☆イン ワンダーランド』「麻宮サキ」「神恭一郎」「クルト」「レオン」「沖田総司」「恵子」「明日香」
「ムウ=ミサ」という和田キャラ勢揃い!しかも、合作とは言え・・区別が付かない絵!
その他には『和田慎二キャラ』と『もう一人(笑)』それに・・この話のオチ(爆笑)となる人が出てきますヾ(^_^;
和田キャラがキャベツ畑(総司のみかぶ畑)から落ちてきて…森に迷い込んだということから始まるこの話。オチは・・やっぱりお笑いか…(-_-;(風祭99/3/22) |
黒い子守歌
−砂の薔薇VS.スケバン刑事−」
作者: 新谷かおる・和田慎二
(発行 八十八夜
発行年 1999年8月15日) |
米国要人令嬢4名が日本留学後とった行動とその亡骸の異常な変化の謎を解明するため、米国対テロ機関CATの女性部隊トップチームディビジョンMと学生刑事麻宮サキが協力し、令嬢達の留学先である私立紫鳳女学園に潜入捜査する話です。
「砂の薔薇」「スケバン刑事」両登場人物が、それぞれの持ち味を生かしてお互いを助け合い、安心して楽しく読みました。今回特徴的なのは、麻宮サキが本編よりも冷静沈着な性格で表現されていることです。上司である暗闇警視をいつもの愛称ではなく役職名で呼んだり、仕事の説明を催促したりして少々意外(でも面白い)でした。あと暗闇警視が今回珍しくつっこみを入れたり、コマによっては心なしか若返ったりしている(しわが少ない時があるのです)のも見所です。
ただ一つ残念なのは、敵役が類型的な単なる子悪党に表現されたことです。極めて制限されたページの話であるためと思うのですが、せっかくの舞台装置に登場人物だっただけに、もう少し敵役の個性が発揮されたらいいのにと思いました。 |
|
以下引き続きUP!お楽しみに・・・
|