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●海石窟戸(あまのいわと)
斎島の名所。でも、見る限り何の変哲も無い、海岸沿いのただの洞穴。神事を行う場所でもある。
勿論、神話に登場する「天の岩屋」から由来しているのは明らか。太陽神・天照大御神が弟・須佐之男命の乱暴さを恐れて隠れてしまったあの洞窟です。
太陽神が隠れてしまい高天原(神さまの国)は真っ暗になったからさあ大変。たくさんの神々が知恵を絞り、あらゆる祈祷の品々を用意し、最後の仕上げに天鈿女が盛大に踊ったところ、外の賑やかな様子に惹かれて天照大御神は岩屋からお出ましになりましたとさ。
●天鈿女命(あまのうずめのみこと)
あめのうずめ、とも読みます。神話「天の岩屋」で大活躍された神さま。岩屋に隠れてしまった天照大御神をその激しい躍りで見事誘い出した。そこに記される、なり振り構わず半裸で踊り狂う様は、所謂神がかり状態であることから巫女の神さまとされる。また、天孫・邇邇芸命(ににぎのみこと)が天降りする際にも、道を塞いでいた猿田毘古神(さるたひこのかみ)に立ち向かい問いただすなど勇敢な面も持つ。天宇受売命とも。
●荒吐神(あらばきしん)
古代津軽民俗が信仰していた神。荒覇吐神(あらはばきしん)とも呼ばれる。古代の津軽地方には複数の民俗が住んでおり、そこに神武天皇の東征に敗れた安日彦・長脛彦(長随彦とも書かれているものもあります)が合流、一気に津軽の王となり宗教をも統一し、全能の神・荒覇吐神を最高神とする荒覇吐族が誕生します。
荒吐族(荒覇吐族)の信仰は太陽や水などの自然崇拝が基本で、亀ヶ岡遺跡からは荒覇吐神をの姿を現したとされる遮光土偶が発掘されています。作中の隻眼の狐のイメージは他の説か安日彦。長脛彦ら邪馬台一族が農耕民族であったこと、つまり産鉄民俗であったということなのでしょう。
●生霊(いきりょう)
読んで字のごとく生きてる人間の霊魂で、恨みを持つ相手に取り憑き災いをもたらす。霊魂と言っても本体が生きている人間、つまり「肉」を持っている為にそのパワーは弱い念のレベルに値する。
白井秀美の場合は、生々しい霊と言った方が似合ってるような…。
●斎女(いつきめ)
神々を鎮め祀る神事を顕斎(うつしいわい)と呼び、その神事に携わる巫女が斎女。
●稲荷(いなり)
大抵の神社でお目にかかれます。当初は赤い鳥居のある「社」を意味していたようですが、現在ではその使いたるキツネのことを言いますね。
●維鉄谷村(いふやむら)
すべてはここから始まったと言ってもいいであろう島根県の村。念のたまり場。村名は古事記の黄泉の国へ続くという伊賦夜坂から由来。ここに布椎家本家がある。神和祭のことも暗黙の了解で口裏を合わせる村民たちがいる。八つ墓村のようなところか?
●維鉄谷の念(いふやのねん)
読んで字のごとく場としての維鉄谷に集まった念。作中では、維鉄谷に集まり1700年来のスサノオの呪詛に支配され操られている強大な怨念を意味していることが多い。
●斎島(いわいじま)
愛媛県に属する瀬戸内海の島。実存するのかは不明。「斎」または「祝」は、忌みつつしむを語源とした言葉であり、また祭事そのものも意味する。
もしかすると厳島がモデルかも?ついでに書くと「いつくしま」とは、神を祭祀しする島の意味で、厳島神社の祭神は女神3神…。
●祝寝(うけいね)
予知夢。気が巫覡に与える力のひとつ。これを使いこなせば神剣なんてすぐ見付かるのに。あ、禁句ですね。
●迦具土(かぐつち)
神剣のうちの1本。布椎家所有。第二次世界大戦以降ただ1本で維鉄谷の結界を守り続けていた為お疲れのご様子。現在はその任を「水蛇」に譲り休息中。
●風返し(かぜがえし)
神剣の意にそぐわない霊力がたまり、何かの拍子に吹き出してくること。
●神和祭(かんなぎさい)
北野は49年に一度の秘祭りと勘違いしていたが、正しくは布椎家の宗主が49歳を迎え唯人になる年に行われる道返神社の祭り。実際には祭りと言うよりは神事を意味するようである。神事では神剣をもって新宗主が現宗主の首を刎ねることにより新旧の宗主の引き継ぎが成される。
七地にはこの神事を覗き見してしまったが為に闇己に殺されそうになったという思い出深い祭り。
●気(き)
自然を含めた生けるもの総てから放出され、何万年にもわたって蓄積されたエネルギーのかたまり。神と言う場合も有る。大きな意味では「念」や「霊」も含まれる。
●鬼哭(きこく)
死者の霊が恨めしさに鳴く声。
●キツネ憑き(きつねつき)
精神病を患っている人やその症状をこう呼んでいた時代も有りました。キツネの霊が人にそのような行動をさせていると信じられいてたのですね。しをりの場合は、先祖が風葬場で自殺した事に起因しているだけです。
何故、タヌキではないのかって?昔から人を騙し、悪戯するのはキツネだったからです。
●綺羅火(きらび)
「綺羅星」を元にした樹氏の造語でしょう。「綺」には美しい、「羅」には薄い絹織物の意味があり、衣服に対して使われるのが本来。また「綺羅星」という言葉も、「綺羅、星のごとく」が誤って略されたものが定着したもので、「美しい衣服を着た人々が星のごとく並んでいる」様子を表わしたもの。それが単純に美しく輝く星を意味に転じたのでしょう。だから、ここでは美しく輝く火、の意味で良いでしょう。解説しなくても分かるか。
●幻刀影術(げんとうえいじゅつ)
イメージした神剣を幻影として作り出し、実際に使用する。高度な技術を持つ鍛治師と巫覡にのみ可能な技。作り出した神剣はあくまでも幻なので神剣としての力は弱い。
●事代主(ことしろぬし)
3通りの解釈があります。一つには、人名。真名志の師匠にあたる巫覡の名前がコトシロヌシ。二つ目は、お告げを聞き「何々するのじゃぁぁぁぁあ!!」とのたまう託宣屋のこと。最後は「古事記」などに出てくる神様で出雲の神様・大国主神の息子。「ことしろ」は「言知る」の意味で、託宣を司る神様です。奈良県の鴨都波神社は、この神様を祭神としてます。
●審神者(さにわ)
作中では、巫女に降りた神の意志を判断する者。「沙庭」と表して、このような託宣を受ける場所のことを言う場合もある。
●首長(しゅちょう)
地方自治体の長。ここでは、今で言う区長のようなものと思って頂ければ良いかな。首長たちを束ね、さらに上に立つ人物が「王」と言うことで。
●巫覡(しゃーまん)
「八雲立つ」においては「みこ」ではなく「しゃーまん」と読む。闇己曰く「神と人の間に立ち、神をその体に依り憑かせ神の意を伝える半神人」とのこと。エクソシストのような悪魔払い呪術師とは違いますので、くれぐれもお間違えのないように。
●呪文(じゅもん)
元々は易の八卦に由来している。坎・艮・震・巽・離・坤・兌・乾はそれぞれ水・山・雷・風・火・地・沢・天を意味します。なんだか神剣と似てますなぁ、ひとつ多いけど。
●神剣(しんけん)
道返神社の御神体だったが、第二次世界大戦中に盗難に遇い7本あったうち布椎家にあった「迦具土」以外は行方不明となる。製作はミカチヒコ。憑依の際には巫覡の力の増幅器となる役割を持つ。また神剣で斬られた魂は念にはならず昇華する。
物語の進み具合は神剣の集め具合に比例する。「迦具土」以外で名前の分かっているものには「水蛇」「建御雷」「山祗」「天叢雲」「草薙」などがある。
●神道夢想流古武術(しんとうむそうりゅうこぶじゅつ)
布椎神道流居合術の分流にあたる柔術の流派。布椎家分家の野城上家が師範を務めている。現在は闇己の叔父の野城上脩が師範代を務めている。嵩もここに入門している。
●素盞鳴(すさのお)
古代出雲族の英雄に与えられる名。大統領とか首相とかの役職名のようなものと考えていいでしょう。そのうちの一人が絶命間際に吐き出した怨念が土地に残り大迷惑の元となっている。
●正と負(せいとふ)
巫覡の性質。一般の念を操る巫覡を「正の巫覡」と呼ぶのに対し、肉体をも取り込んでしまうような悪質危険極まりない念を操る巫覡を「負の巫覡」と呼ぶ。危険物を扱う程なので「正の巫覡」よりも「負の巫覡」のほうが強大な力の持主と言えるでしょう。が、「負」=「異端」と言われるくらいですので、その存在はかなりの稀少価値と思われます。スターウォーズで言えば、ジェダイとシス。
●衣通姫(そとおりひめ)
第19代天皇・允恭(いんぎょう)天皇の娘。「衣通姫」とは、あまりに美しく、その身体から光が着ている服を通して輝いて見えたために呼ばれた通称で、軽大郎女(かるのおおいつらめ)が正式な名前。実の兄である木梨之軽王(きなしのかるのみこ)の猛アタックに折れ、愛し合うようになってしまう。当時は異母兄妹の婚姻は認められていても、軽王と衣通姫のような同母兄妹の婚姻は禁忌であったため、罪に問われ、軽王は流刑されてしまいます。衣通姫は軽王を慕い流刑地へ赴き、そこで二人は自ら命を絶ってしまいます。
この悲劇のヒロイン衣通姫をモデルにしたのが寧子というところでしょう。結末は似ないで欲しいものです。
●建御雷(たけみかづち)
神剣の一本。剣の神霊である勇猛な建御雷之神に由来している。「古事記」では、この建御雷之神は伊邪那岐命が迦具土神を斬った際に水神と共に誕生したとなっています。
もともとが剣の神様だけあって本体はなくとも荒吐加神社で見せた威力は凄まじく、実物の力は一体誰が使いこなせるのでしょう…。
●道返神社(ちがえしじんじゃ)
名前は古事記に出て来る黄泉の国との境をふさぐ大岩‘道返之大神’に由来する。本来は7本の神剣が御神体として祀られていたが、第二次世界大戦中に盗難にあっている。現在は道返しの祭神・素盞鳴尊(すさのおのみこと)の神像が祀られている。
●辻(つじ)
道が十字に交差したところ。道が交差するところは現世と霊界の交わるところと謂われ、実際怪談話等の噂も多いですね。この場合「道」とは現在のような舗装された道路ではなく、ひと一人が歩いて通るような道を言うようですが。
●天井(てんじょう)
「鬼哭の辻」の料亭「尼辻」が前身の尼寺であった頃に貼られていた血に染まった天井板。血天井とも呼ばれる。おそらく関ヶ原の合戦で落城した伏見桃山城の天井板のことを指していると思われます。京都の源光庵、養源院などで実際に見れます。
●七人御先(ななにんみさき)
しちにんみさき、とも読む。七人を誘い殺すまで成仏できない悪霊の事。「御先」は本来神の使いのことだが、この場合は祀る者もなく怨霊と化した亡霊を意味する。
闇己の通う櫻里乃原高校では、この「七人御先」が元になり、ある日時に学校内に7人集まるとそのうちの一人が必ず災難に遭う「七人目」と言う伝説ができた。
また、「7」という数字は欧米では“ラッキー7”などと呼ばれ好まれる数字だが、日本古来の考えでは、完全数に近い不完全な数字として忌み嫌われた。因に縁起の良い完全数とは「8」のこと。
●念(ねん)
人の思念や怨念から発生し、年月を経ても昇華できずに自然の「気」に近くなってしまったもの。やっかい。
●場(ば)
気の力を取り入れることのできる場所。そこが土地の場合もあるし、人の場合(巫覡)もある。
●二岐大蛇(ふたまたおろち)
言葉通りに解せば、二つ頭の大蛇ですが、登場初期で得体の知れない忌部兄弟のことですかね。
元ネタは明らかにあの有名な神話「八俣大蛇」でしょう。
日本書紀では「八岐大蛇」。出雲国に棲む眼が赤く胴体一つに八頭八尾の蛇体の水神。足名椎の娘の命を毎年奪っていた。高天原を追放され出雲国に降り立った須佐之男命は、大蛇に狙われている足名椎の娘・櫛名田比売を妻に貰えるならば大蛇を退治しようと申し出る。そして大蛇が酔いつぶれた時を見計らって見事打ち倒した。その時、大蛇の尾から現れた「草薙剣」は天照大御神に献上され三種の神器の一つとなった。
櫛名田比売を娶り新居を構えた際に喚んだ歌が「八雲立つ?」である。
大蛇は河川の氾濫、姫は流域の畑を象徴し、農耕神でもある英雄が大蛇を退治することで暴威を鎮め豊穣を約束してくれたことを意味している。オロチは異民族を指すと言う説もある。大蛇の体から剣が出たのは、出雲一帯がが砂鉄の産地であったため。
ギリシャ神話のアンドロメダ等類似の説話多し。
●布椎神道流(ぶつちしんとうりゅう)
布椎家が宗家を務める居合道の流派。段位が無く、目録・印可・免許皆伝の三種の免状しか持たない。免許皆伝は一人にしか認められない。闇己は既に印可を受け、布椎家宗主の地位を継ぐことで免許皆伝の免状を受けたことになっている。
●水蛇(みずち)
古代の鍛冶師ミカチヒコが作った神剣の一本。七地の祖父の形見として七地家にあった。バイトの取材のついでに七地が出雲に持ってきたところ念封じに大活躍となる。
本来「水蛇」の「蛇」は虫偏に也と書く字を使いますが、拙宅のおバカなパソコンではその漢字が出ないので同じ意味を持つ「蛇」を代用させて頂きます。
●禊(みそぎ)
身に水をそそいで汚れを浄める事。勿論衣服を脱ぎ捨て裸で行う。…葛岐家において意識不明の闇己を誰が禊したのでしょうか。
●三輪族(みわぞく)
三輪の神を奉り、三輪山周辺を本拠てとしていた豪族。神君(みわのきみ)とも言う。三輪山は奈良県桜井市にあり、その麓には三輪明神で知られる大神神社(おおみわじんじゃ)が鎮座する。祭神は大物主神だが、ご神体は三輪山そのものであるため本殿は無い。
古事記にある三輪山説話は神人通婚のお話。たいへん美しい活玉依毘売(いくたまよりびめ)のもとに、夜な夜な一人の高貴な男性が通って来ていましたが、そのうちに姫は身ごもってしまう。この男性は何者じゃいと知るべく、糸を通した針をこの男性の衣服につけ、翌朝辿って行くと着いたところは三輪山の神社。その男性は神さまでした、と言うお話。
三輪族と同祖に鴨君(かものきみ)があり、これは奈良県葛城郡を本拠としている。
●八雲立つ(やくもたつ)
この漫画のタイトル。…とだけ書いたらひんしゅくですよねー。もともとは古事記のなかで詠まれる日本で最初の和歌「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を」から。一般には喜びの歌と解釈されているが、この作品では出雲族の呪詛の込められた歌との解釈をとっている。
八雲=夜蜘蛛=出雲族という説もありますからねぇ。呪詛かな、やっぱり。
平成4年から連載開始。16歳の少年巫覡が世界を破滅に導く強大な怨念を昇華すべく、仲間と神剣を集めて立ち向かうお話。コミックスカバーには‘ヒロイック・ホラー’などと訳の解らないジャンルが付けられているちょっと損をしている作品。これで敬遠した人いるよ、絶対。
●ヤマト(やまと)
多分、大和朝廷のこと。
●霊(れい)
念と同じく人から発生したもので、人であった頃の意志を残しているごく弱い気。
●ロハ(ろは)
眞前によると「南米のごくごく限られた地域にのみ生息する珍種」で、名称は「La
hierba roja de Dios(ラ・イエルバ・ロハ・デ・ディオス)」スペイン語で神の赤い草を意味する。現地人の通称でロハ。
安柘たちは「アカクサ」と呼び、斎島に生息しているものは安柘たちの曾祖父が南米から密輸したものが増えた。麻薬として利用出来、その効果時間は平均24時間以上と驚異的。
さて、この物騒なものにやけに詳しい眞前パパ、一体どんな悪いことに使うつもりなんでしょうねぇ。
●若宮(わかみや)
一般的には皇子の意味を持つ。「八雲立つ」においては、非業の死を遂げた者の霊魂を言う。「若宮信仰」とは、そのような霊魂は激しく祟るので封じる為に屋敷神として祀りあげたものでそう呼ばれた。
●倭国(わこく)
九州に勢力を持つ国家。
●海神(わだつみ)
「かいじん」又は「かいしん」と読むのが正しく、「わだつみ」は八雲流な読ませ方ですね。「わだつみ」も後世に変化したもので元は「わたつみ」。「わた」が海、「つ」は「の」にあたり、「み」が神を表わす。
と伊耶那美命(いざなみのみこと)の国造りの際に誕生した海を司る国土神。また同じく海神として綿津見神があり、こちらは伊耶那岐命が黄泉国から戻り禊を行った時に生まれた神さまで、底津綿津見神、中津綿津見神、上津綿津見神の三神で一組。そして禊をした場所が筑紫つまり九州。北九州沿岸を本拠地とした海人を率いる豪族、安曇族が綿津見神を信仰した謂れはここにあると思われます。