サクラテツ対話篇 全2巻 (2002/11up)
□関連サイト『サクラテツサイト篇』
【出版社】集英社 【発表年】2002年7月9日
【サイズ】新書判【その他】
【感想】
*メンタルグローバルの権威・藤崎竜氏の2002年最新作。全14話、単行本上巻・下巻の構成。大都心の中枢地区にある桜家に、次々と押し寄せてくる侵略の手。テツは様々な手腕を使い、あるいは勢い任せに投げやりにそれをかわしてゆくという展開らしいのだが、ひとくくりに出来ない藤崎氏最大の特長である広漠とした世界観があり、読んでいて何故か引き込まれてゆく不思議さは衰えるどころか、更に新境地を切り拓いた感すら窺える。特に後半のストーリー内の登場人物に『読者』を取り上げ、作品と作者・読者にあるボーダーラインを浮き彫りにさせ、文字通り当該作品において読者と対話してしまう氏の創作技量と、全体を鑑みて極めて危険な展開に際しても、決して落魄しないクオリティの高さには言うまでもないほどに脱帽する。しかしながら、藤崎竜短編集での批評にも記したように、少年誌においての氏の魅力は高度過ぎる部分があるため、盤石たる人気確立には至らず、大幅な層に敬遠されていたのか、逆に短命に終わってしまったとも言える。知名度には欠かせない少年誌での連載ではあったが、当作品に関しても、青年誌であった方が、長期連載への切符を約束された、藤崎ワールドの十分な魅力の発揮に繋がったと思うのは、果たして杞憂であろうか。(2002/11 鷹
嶺 昊 )
藤崎竜短編集 全2巻情報・感想お寄せください
【出版社】集英社 【発表年】第1巻 1992年7月8日,第2巻 2001年4月9日
【サイズ】新書判【その他】第1巻は『WORLDS』。第2巻は『DRAMATIC
IRONY』
【感想】
*藤崎氏いわく、初めての『藤崎本』。藤崎先生のファンならずともご存知であろう。第1巻は【ハメルンの笛吹き】,【WORLDS】,【TIGHT ROPE】,【SHADOW DISEASE】,【SOUL
of NIGHT】の4作品を、第2巻は【ユガミズム】,【milk junkie】,【異説・封神演義】の3作品を収録。藤崎氏の抜群たるセンスは、偏に人間のメンタルにおける生々しさの露呈と、現代文明への警鐘。そして、それが氏の描く絵柄に十二分に合致しているということに他ならないであろう。そのクオリティの高さは未だに廃れる色を見せることなく、第1巻においては、2001年同時期現在で、第34版発行という点で、根強い人気を得ていることを証明していると言えよう。とかく、恋愛・アクションという概念に片寄ることなく、或いは人間の心の闇を鋭く突き、或いは誰しもが一度は夢に抱いたことのあるであろう、ヒーロー・ヒロイン像を爽快に描く藤崎氏の天才は、その後においても他者の追随を許すことはないと言っても過言ではない。しかし、唯一の欠点と言うべきか、残念な点とでも言うのか。藤崎氏の描くメンタル・グローバルな世界設定と訴求性に満ちた作風は残念ながら、少年誌においてはやや高度すぎると言うところである。広漠とした藤崎氏の魅力は、少年誌連載では十分な裁量を発揮出来ないと言う懸念を伺える短編集であるとも言えるわけである。(2002/10 鷹
嶺 昊)
PSYCHO+(サイコプラス) 全2巻
情報・感想お寄せください
【出版社】集英社 【発表年】1993年6月9日
【サイズ】新書判【その他】2巻巻末に読切作品「伝染源」「DIGITALIAN」を収録
【感想】
不肖私が藤崎竜という作家を初めて知った作品。その美麗なアートに惹かれたのが始まりである。短編集WORLDS以来、藤崎氏にとって通算2冊目の単行本であり、週刊少年ジャンプの連載も相まって思い出深い作品であることは間違いがないと思われる。さて、藤崎氏の描く世界をただのSFという枠に一括りにするには実に短絡的である。その理由は、当作品が発表されて実に十年以上も経つわけであるが、今読み返してみてもそのストーリーと舞台設定は、科学分野においての考察面からしても未だ新境地の開拓に至るに及ばないために、常に斬新さと提議の余地を失わない。また、このPSYCHO+に関しては藤崎流作品には珍しいとも言える主人公・綿貫緑丸とヒロインである超絶電脳美少女・水の森雪乃との恋愛要素も伏線にあり、主人公・もしくはヒロインに対する感情移入も同氏の他作品に比較すれば実に多様性に富んでいると言える、私的には藤崎作品の最高傑作のひとつであると考えるがいかがなものであろうか。第2巻末の読切二作品は、藤崎氏をしてメンタル・グローバルの権威と称するに等しいハイレベルな未来観の危惧を生々しく呈しており、現代社会において我々が何が出来るのかを、暗に伝えているストレートな舞台が素晴らしい。(2002/12
鷹嶺 昊)
*これは私がリアルタイムで「ジャンプ」を読んでいた頃に、連載していた作品です。作者のあのみみずがのたくったような字が好きですね。あと妙にSF。緑色の謎がとても気になりました。(2002/8 じんこ)
封神演義 全23巻
『封神演義』のファンページ
http://www.pluto.dti.ne.jp/~rudo/housin/index.html
【出版社】集英社 【発表年】1996年より連載
【サイズ】新書版【その他】ジャンプC
【カバーは語る】「『封神演義・第1部』をお届けします。大人気の姐己ちゃんも、ふんだんに登場するこの本、色々な意味で楽しんでいただければ、作者としてはこれ以上ない幸いであり、また、それを糧として、先を描く力となります。」(1997年発行1巻第5刷カバー袖より)
【感想】
*
私が生涯最初で最後の骨までどっぷりハマったマンガでした。今はもうそんなことありませんが、ハマった当時は昼も夜も“封神”のことばかり考えていて、漢和辞典で“封神”関連の単語(妲己とか)を見つけては喜んでいたりしたものです。
でもこの漫画は、そんな熱病のようなファン熱が冷めた今読んでみても、作品としての完成度はかなり高いと思います。古典文学を原作にとった漫画はいくらでもありますが、この漫画は原作に囚われすぎてはおらず、かといって逸脱しすぎてもおらず、絶妙のバランスで「藤崎ワールド」とも言うべき独得の作品世界を形成しています。まずキャラクター。主人公太公望を含め実在の人物も多数おり、ともすれば古典的雰囲気漂う堅い雰囲気となる人物達を見事アレンジし、現代人に馴染み易い人物像に組み替えている。かといって決して軽薄でなく、持つ信念は原作に通じています。また古代中国が舞台であるにもかかわらず、しばし近未来的な衣装や背景が描かれていることも不思議とこの物語世界とマッチして、より神話的な太古の世界を引き立たせている。そしてストーリーが「中国四大怪奇小説」の枠に納まらず、SF的な広がりすら見せてある意味原作を超えている。何より「女禍」の使い方が、作者の原作への一番の挑戦だと思えます。原作では「女禍」は物語を裏で操る絶対的存在で、これは物語中の登場人物がどう足掻いても壊せない。しかし漫画版ではその存在を倒すところに物語の枢軸があります。評論家風に言うと、「現代SFの古典神話への挑戦」なのでしょうけれど、私が思うに、原作における「女禍」にムカつき、その存在を一番壊したかったのは太公望でも元始天尊でもなく作者だったのでしょう。「この話の続きが史実と同一とは限らない/導はなくなったのだから」…ラストのこんな言葉が、作者の思いの全てを語っている気がします。(2002/11
緋桐)